日本医科大学における地域枠制度の概要
日本医科大学医学部では、特定の都道府県と連携して地域医療に貢献する医師を育成するための「地域枠」入試を設置しています。2026年度入試(令和8年度入学)では、東京都・千葉県・埼玉県・静岡県・新潟県の5都県と地域枠制度を実施しており、各自治体から選抜枠と修学資金(奨学金)の貸与を受けられる制度です 。地域枠で入学した学生は在学中に各自治体から学費や生活費の支援を受ける代わりに、卒業後に一定期間その自治体の指定する医療機関で勤務する義務を負い、義務を果たせば貸与された資金の返還が全額免除されます。
各地域枠の基本的な仕組みは共通しており、医師国家試験合格後に貸与期間の1.5倍の期間(6年間貸与の場合は9年間)を対象地域の指定医療機関で勤務することで奨学金返還が免除されるルールになっています 。以下、都道府県別に日本医科大学の地域枠制度の内容と、外科専門医を目指す場合のポイントについて詳しく解説します。
東京都地域枠(東京都地域医療医師奨学金)
概要と義務期間: 日本医科大学の東京地域枠は、東京都が貸与する「東京都地域医療医師奨学金(特別貸与奨学金)」を受けることが前提です 。東京都地域枠の定員は2026年度入試で5名程度とされています 。奨学金は入学金・授業料・施設設備費の全額と月額10万円の生活費が貸与され、6年間の学費と生活費をほぼ全額カバーします 。卒業後、医師国家試験合格後から9年間(初期臨床研修2年間を含む)、東京都が指定する医療機関で勤務すれば返還が免除されます 。
勤務先の条件: 勤務する領域(診療科)に特徴があり、東京都地域枠では**「小児医療」「周産期医療」「救急医療」「へき地医療」のいずれかの領域**で都が指定する医療機関に勤務することが求められます 。将来従事する領域は学生本人が選択できますが、この4領域以外での勤務は返還免除の対象になりません 。東京都はこれらの領域での医師確保を重視しており、一般的な「外科(外科系)」は返還免除の対象領域に含まれていません。したがって、外科専門医を志望する場合、東京地域枠では奨学金返還免除の条件を満たしにくい点に注意が必要です 。例えば、心臓血管外科や消化器外科といった通常の外科専門研修は東京都地域枠の指定領域外であり、この奨学金制度のもとでは想定されていません。一方で「救急医療」領域を選択すれば救急科専門医を目指すことは可能ですが、純粋に外科医(外科専門医)になる進路とは異なる領域となります 。なお、東京都は奨学金貸与者に対し在学中から地域医療への理解を深める研修や支援を行い、一定の条件下で奨学金返還を免除する仕組みを整えています 。
研修と勤務の自由度: 東京都地域枠では、卒後の初期研修および専門研修についても東京都内で行うことが基本になります。東京都の制度上、専門研修も上述の4領域に合致する専門医取得に限り、指定勤務の一環と見做されます(例:小児科専門医、産婦人科専門医、救急科専門医) 。外科専門医の取得はこれらに含まれないため、東京地域枠の奨学生が外科の専門研修に進む場合、その研修期間は原則として奨学金返還免除のための「指定勤務」とは認められないことになります。結果として、東京地域枠を利用して外科医を目指すのは制度上かなり制約が大きいと言えます。義務違反と見做された場合は奨学金の返還義務が生じますので(後述)、東京地域枠での進学は自分の志望科との適合を慎重に検討する必要があります。
千葉県地域枠(千葉県医師修学資金・長期支援コース)
概要と義務期間: 千葉県地域枠の定員は2026年度入試で前期4名・後期3名程度とされ、日本医科大学の地域枠の中でも比較的枠が大きい方です 。千葉県は「千葉県医師修学資金貸付制度(長期支援コース・地域枠)」により、月額20万円(年間240万円)を在学6年間に貸与します 。6年間で総額約1,440万円が貸与され、卒業後に貸与期間の1.5倍の期間(9年間)、千葉県知事が指定する県内の医療機関で医師として勤務すれば全額返還免除となります 。この9年間には初期臨床研修期間も含めて算定されます(制度上明記はありませんが、初期研修も県内で行えば義務期間に算入可能と考えられます)。なお、千葉県では医師免許取得後に大学院進学や海外留学等で一時的に義務勤務ができない場合、最長4年間の猶予期間を設けて柔軟に対応する仕組みもあります 。
勤務先の条件: 千葉県地域枠では勤務先となる医療機関の診療科に制限は設けられていません 。千葉県内の多くの病院が地域枠学生向けの**「診療科別コース」**(モデルコース)を用意しており、基幹となる19の基本領域専門医すべてについてキャリアパスが整備されています 。例えば、外科系であれば千葉県内の専門研修プログラム(例:千葉大学病院や県内基幹病院の外科専門医コース)に沿って研修・勤務するモデルコースが用意されており、それに沿って県内の関連病院群で勤務することで返還免除要件を満たすことができます 。診療科の選択は学生の自由であり、外科専門医を取得することも制度上可能です。外科コースが含まれる19のモデルコースの中から自分の希望に合ったものを選び、卒業後は初期臨床研修ののち、そのコースに従って専門研修と義務勤務を両立していく形になります 。
研修と勤務の自由度: 千葉県は地域枠学生向けに**「キャリア形成支援プログラム」を運用しており、在学中から卒後にかけて県内でのキャリア形成を個別にサポートします 。初期研修先や専門研修先も、学生の希望する診療科を踏まえて自ら就職活動(マッチング等)で決定しますが、その病院が返還免除要件を満たす指定病院かどうかを県が確認し、「特定病院」として指定する仕組みになっています 。千葉県内であれば大学病院から地域中核病院まで幅広く指定対象となるため、外科の場合も大学病院等で専門研修を受けつつ、その後関連病院で勤務することで義務を履行できます。診療科に関して県から指定・強制されることはなく、「返還免除の条件として診療科を指定しない」**ことが明言されています 。したがって、外科を志望する学生にとって千葉県地域枠は比較的自由度が高く、専門医取得と地域医療従事を両立しやすい制度と言えます。
留意点: 千葉県地域枠では、奨学金を受けた学生は「特段の事情」がない限り9年間の勤務義務を果たすことが前提となっており、万一途中で義務履行を断念した場合には貸与額全額を利息付きで一括返還しなければなりません (後述)。外科に限らず、いずれの診療科を志望する場合でも、この長期義務を完遂する強い意思が求められます。
埼玉県地域枠(埼玉県医師育成奨学金・指定大学奨学金)
概要と義務期間: 埼玉県地域枠の定員は日本医科大学では2026年度入試で前期1名・後期1名です (埼玉県全体では他大学分も含め多数の地域枠を設けています )。埼玉県の奨学金は「埼玉県医師育成奨学金(指定大学奨学金)」として**月額20万円(6年間総額1,440万円)**が貸与されます 。卒業後、貸与期間の1.5倍の期間(9年間)を埼玉県が指定する医療機関で勤務すると返還免除となります 。埼玉県の場合、その「指定医療機関での勤務」の条件として2通りの履行コースが用意されている点が特徴です 。
勤務先の条件: 埼玉県地域枠では、卒業後の勤務条件として**(A)「特定地域」または(B)「特定診療科等」**のいずれかで勤務する道が提示されています 。
- (A) 特定地域コース: 埼玉県が定める特定地域(埼玉県内の医師不足地域とされる複数の市町村)にある公的医療機関で9年間勤務するケースです 。特定地域には熊谷市、秩父市をはじめ埼玉県北部・秩父地域の市町村など多数が指定されており、そうした地域の病院で勤務すれば診療科を問わず返還免除要件を満たせます 。例えば外科専門医を取得した場合でも、これら特定地域の公立病院で外科医として勤務すれば義務を果たすことが可能です。都市部では医師が不足しがちな産科・小児科以外の診療科でも、特定地域の病院であればニーズがあるため、外科志望者は主にこの(A)地域コースを選択することで返還免除を目指すことになります。
- (B) 特定診療科コース: 埼玉県内の病院における**「産科」「小児科」「救命救急センター」のいずれかで9年間勤務するケースです 。これら特定診療科等**は埼玉県が特に医師確保を図りたい分野であり、勤務地は県内であれば地域を問いません 。例えば埼玉県内の基幹病院の産婦人科医、小児科医、救急医として従事すれば場所に関係なく義務を果たしたと見做されます。しかし外科はこの「特定診療科等」に含まれていないため、外科医志望者が(B)コースで返還免除を受けることはできません 。そのため外科を目指す場合は前述の(A)地域コースを選ぶ必要があります。
研修と勤務の自由度: 埼玉県では、地域枠合格者に対し出願時に(A)特定地域か(B)特定診療科か希望コースを選択させています 。一度選んだコースは奨学金の貸与決定まで原則変更できず、入学後にもし適性等で進路希望が変わった場合も、面談等でフォローアップしつつ対応するとなっており安易なコース変更や義務免除は認められません 。外科志望の場合は(A)コースを選ぶことになりますが、初期臨床研修については埼玉県内の主要病院(例:埼玉医科大学関連病院など)で行い、その後専門研修も埼玉県内で修了することが望ましいでしょう。義務勤務としてカウントされるのは医師免許取得後に「特定地域の公的病院」または「特定診療科」で勤務した期間のみであり、例えば初期研修を他県で行った場合その2年間は義務期間に算入されない可能性があります(その分、後年に勤務を追加で行う必要が生じ得ます)。従って、埼玉県地域枠では専門医取得の研修期間も含め、なるべく埼玉県内でキャリアを積むことが推奨されます。外科専門医の取得自体は県内の基幹病院で可能ですし、取得後は特定地域の中核病院(例:県北部の公立病院)で外科医として勤務することで義務を果たせます。重要なのは、志望段階で地域勤務か特定診療科勤務か進路を定める必要がある点と、外科志望なら地域勤務で貢献する覚悟が求められる点です。
留意点: 埼玉県地域枠も他県同様、義務不履行時の返還ペナルティは厳しく、貸与総額の全額返還に加え利息(年10%)や遅延利息まで課される規定があります 。将来「やはり都市部で自由にキャリアを積みたい」「他の診療科に転向したい」という希望が生じた場合、地域枠を利用していると進路変更が難しい(もしくは高額の負担を伴う)ことを十分認識する必要があります。特に埼玉県では出願時にコース選択を誓約する仕組み上、安易な志望変更はできない旨が明記されています 。外科専門医を目指しつつ埼玉県地域枠を利用するなら、最終的に県内の医師不足地域で外科医として働く使命感が求められるでしょう。
静岡県地域枠(静岡県医学修学研修資金)
概要と義務期間: 静岡県地域枠の定員は2026年度入試で前期3名・後期1名程度です 。静岡県は「静岡県医学修学研修資金(日本医科大学地域枠)」として年額240万円(月額20万円)の奨学金を6年間貸与します 。貸与総額は約1,440万円で、卒業後に静岡県が策定する「静岡県キャリア形成プログラム」に従い、静岡県内の指定された公的医療機関等で9年間医師として勤務すれば全額返還免除となります 。静岡県の場合、医師免許取得後16年が経過する日までにこの9年間の勤務を完了させることが必要という規定があり 、すなわち卒後16年以内であれば一時的に義務勤務を中断する猶予も認められるという、比較的柔軟な仕組みになっています(例:専門医取得や留学で一時県外に出ても、16年以内に通算9年県内勤務すれば免除可)。
勤務先の条件: 静岡県内の公的医療機関等であることが条件ですが、特定の地域(例えば過疎地に限る等)の指定は明記されていません 。静岡県は広域に医療圏がありますが、基本的には静岡県全域の公的病院・医療センターなどが勤務先候補となります。詳細は個別に「県が指定する静岡県内の公的医療機関等」と卒業時に通知される仕組みで、学生ごとにキャリアプランに沿った配置を行うようです 。特に診療科の指定はなく、静岡県地域枠では勤務科目の自由度が高いことが公式に示されています。「返還免除の条件として診療科を指定することはありません」と明言されており 、学生本人が希望する専門分野(外科を含む)でキャリアを積むことが可能です。外科専門医を目指す場合でも、初期研修後に静岡県内の専門研修プログラム(例:静岡県立病院機構の外科プログラムなど)に進み、その後県内の公的中核病院の外科医として勤務する形で義務を果たすことができます。
研修と勤務の自由度: 静岡県は「静岡県キャリア形成プログラム」という県独自の仕組みを設けており、地域枠学生一人ひとりに対して卒後のキャリア計画を提示・管理します 。初期臨床研修について静岡県は「県で研修先を指定はしないが、県内病院で研修してもらう」としており、マッチングにより各自が静岡県内の研修病院を選ぶことを期待しています 。必ずしも県外研修が禁止ではありませんが、県としては県内の臨床研修病院で研修することを推奨しています 。専門研修についても、静岡県内の基幹病院で行うことが望ましく、多くの診療科で県内研修が完結できる体制があります(静岡県には複数の地域中核病院や静岡県立総合病院など専門研修基幹施設が存在)。仮に専門医取得のために一時的に県外に出る場合でも、前述のとおり卒後16年以内に県内勤務9年を満たせば良いため、一定の猶予が認められています 。診療科の選択は完全に学生の自由ですので、外科専門医の取得も全く問題なく可能 。他県と比べても静岡県は制度面で専門医取得との両立を配慮しており、外科志望者にとって比較的利用しやすい地域枠と言えます。
留意点: 静岡県地域枠でも、基本的には県内勤務による返還免除を全員が達成する前提ですが、万一達成できなかった場合には貸与金の返還義務が生じます(利息等の扱いは貸付条例で定められています)。もっとも、前述のように猶予期間が長めに設定され専門研修との両立が図りやすいため、他県より義務違反に陥るリスクは低めかもしれません。それでも16年以内に県内9年勤務という条件は厳然とありますので、長期にわたり県外で勤務する希望がある場合などは注意が必要です。外科医を目指す上では、むしろ専門医取得後のキャリア(開業や大学残留など)に制限が生じる点に留意すべきでしょう。地域枠利用者は基本的に義務を果たすまで県内の指定病院で勤務を続ける必要があります。静岡県はその指定病院を個別に定めますが、公的医療機関であるため大学病院の医局人事とも連携しつつ配置されるものと推察されます。
新潟県地域枠(新潟県医師養成修学資金・重点コース)
概要と義務期間: 新潟県地域枠の定員は日本医科大学では前期1名・後期1名です 。新潟県は「新潟県医師養成修学資金(重点コース)」として月額30万円(年間360万円)を6年間貸与します 。貸与総額は約2,160万円と他の自治体より高額で、これは新潟県が地域医療担い手確保を強力に推進していることを反映しています 。卒業後、医師免許取得後に新潟県が指定する医師不足地域の医療機関等で9年間勤務すれば貸与額全額の返還が免除されます 。この9年間には初期臨床研修の2年間が含まれる点が明記されており、すなわち卒業後ただちに新潟県内の指定病院で研修・勤務を開始し、そのまま9年間従事することが求められます 。
勤務先の条件: 新潟県が指定する「医師不足地域」の医療機関であることが条件です 。新潟県では豪雪地帯や離島・山間部など医師不足地域が点在しており、具体的な勤務地は卒業時に県から提示されます。都市部(新潟市など)の大病院は通常「不足地域」には該当しないため、新潟県地域枠では地域医療の最前線となる僻地・中山間地域の病院で勤務する義務がある点が特徴です 。そのため、初期臨床研修も可能な限りそうした地域の中核病院で行うことが期待され、研修病院としては新潟県立病院(長岡、市立病院など含む)や県内の地方中核病院が候補になると考えられます。
診療科の自由度: 新潟県は将来の診療科選択について特に制限は設けていません。募集要項では「将来の診療科の選択については、特に地域医療に貢献できる内科・総合診療科等を推奨します」との記載があるのみで、あくまで推奨であって強制ではないことが読み取れます 。したがって、外科を希望する学生でも新潟県地域枠に出願・入学することは可能です。しかし、新潟県が想定する地域医療への貢献分野はプライマリケア領域(総合診療や内科、小児科など)であるため、外科専門医として地域貢献する道は自ら切り拓く必要があります。例えば、新潟県内の医師不足地域にある県立病院等で外科医として勤務し続けることで義務を果たすことになりますが、当該地域の医療ニーズによっては外科手術よりも内科的プライマリケアが中心になる可能性もあります。外科専門研修そのものは新潟大学医学部附属病院など都市部で行う必要がありますが、新潟市は医師不足地域ではないため、専門研修期間中の勤務は義務期間に算入されない可能性があります(公式資料には明記されていませんが、常識的には不足地域勤務ではない期間は義務履行と見做されないと考えられます)。その場合、研修終了後に改めて不足地域で通算9年間勤務する必要が出るため、外科専門医取得後は長期間にわたり地方病院で勤務する覚悟が求められます。新潟県からは内科系を推奨されるとはいえ、外科で地域医療に貢献する意思が明確にあれば制度上は問題なく挑戦可能です。
留意点: 新潟県地域枠は貸与額が大きい分、義務違反時の返還リスクも高額になります。制度から離脱した場合はやはり貸与金全額の返還義務(利息付加)が生じます。また、新潟県は義務開始が早く猶予も少ない印象があるため、卒業後すぐに地域医療の現場に飛び込む覚悟が必要です。他の地域枠に比べて専門研修との両立が難しい局面もあるかもしれませんが、その分地域医療への貢献度は非常に高い制度と言えます。外科専門医志望者にとっては「専門スキルを地域で活かす」という明確な目標が求められ、都市部で高度専門医療に携わるキャリアパスとは異なる道を歩む可能性が高い点を理解しておく必要があります。
地域枠利用者が外科専門医を目指す際の注意点
以上のように、日本医科大学の地域枠制度は自治体ごとに特徴がありますが、外科専門医を目指す学生にとって特に重要なポイントを最後に整理します。
- 診療科の指定・制限: 東京地域枠と埼玉県地域枠(Bコース)では、卒後に従事すべき診療科が限定されています。東京都は小児科・周産期・救急・へき地以外は返還免除にならず 、純粋な外科は含まれません。埼玉県も産科・小児科・救急以外は特定診療科に該当せず 、外科で返還免除を受けるには特定地域で勤務する必要があります。一方、千葉県・静岡県・新潟県は診療科の指定がなく自由に選択可能です 。外科専門医の取得自体が制度上可能かどうかという点では、東京地域枠は実質困難、埼玉県地域枠もコース選択によっては難しいですが、それ以外の地域枠では制約なく可能です。
- 研修先・キャリア形成: どの地域枠でも初期臨床研修や専門研修の段階から地域医療への従事を意識する必要があります。特に新潟県のように「卒業後ただちに9年勤務(初期研修含む)」といったケースでは、研修病院選びから地域に密着したキャリアを歩むことになります 。千葉県や静岡県のように専門研修との両立を支援する仕組みがある自治体では、外科専門医取得のため大学病院等で一定期間研修した後、関連病院で勤務する計画を立てることができます 。自治体によっては専門研修中の県外勤務を一定期間許容する(静岡県の16年ルールなど )場合もありますが、基本的には奨学金返還免除の要件となる勤務期間は自治体指定の病院でのみカウントされます。つまり、外科の高度専門研修であっても指定外の病院で行えば義務履行には含まれず、後からその分の勤務年数を追加でこなす必要が出てきます。この点は地域枠利用者が専門医取得を目指す際のジレンマでもあり、あらかじめ自治体担当部署や大学と相談しながら計画を立てることが望まれます。
- 義務違反時のペナルティ: 地域枠制度を利用する上で最大の注意点は、万一途中で義務を果たせなくなった場合の負担です。いずれの自治体も貸与形態は「あくまで貸付(金)」であり、義務を全うできなければ全額返還が原則です 。例えば千葉県の場合、制度を離脱した場合は借り受けた修学資金に年10%の利息を付して一括返還しなければなりません 。利息は貸与期間中ずっと発生し、6年間月20万円貸与なら利息総額は約425万円にもなります 。返還期限に遅れれば年14.5%の延滞利子まで付く厳しい条件です 。他の自治体も程度の差こそあれ同様に高率の利息・違約金が定められています。つまり地域枠に安易な気持ちで合格・入学し、後から「やっぱり義務を果たせない」となると数千万円単位の債務を背負うリスクがあります。外科専門医のキャリアは大学院進学や留学など計画が変わることもあり得ますが、地域枠利用者はそうした自由度が制限されることを覚悟しましょう。特に東京都地域枠のように外科が義務領域外の場合、外科医を志す時点で返還免除を放棄するに等しい選択となりかねません。
- 診療科変更の可否: 在学中~卒業後に志望科が変わる可能性もありますが、地域枠では当初の契約条件から大きく逸れる進路変更は困難です。埼玉県のように出願時にコース選択を固定し、後からの変更は原則できない仕組みもあります 。千葉県は柔軟に見えますが、基本は入学時に将来のプランを念頭に置いています 。どうしても診療科変更を伴う進路変更をしたい場合、地域枠を辞退して奨学金を返還する覚悟が必要です。その際先述の通り多額の返還金が発生します。外科を志望して地域枠に入ったものの、例えば内科に興味が移った場合などでも義務先との整合性が取れれば問題ありませんが、そもそも自治体が必要とする科から大きく外れると配属先がなくなる恐れもあります。地域枠を利用するなら、「医師として○○県(市)のために働く」という軸はぶらさずに、診療科の範囲で可能な範囲の変動に留めるべきでしょう。
以上をまとめると、地域枠制度は経済的支援と引き換えに卒後の勤務を約束する制度であり、外科専門医を目指す場合でも活用は可能です。ただし、自治体ごとに外科領域でのキャリアのしやすさに差があります。千葉県・静岡県は診療科の自由度が高く外科志望者に向いており、新潟県・埼玉県は地域医療への強いコミットメントが求められ、東京都は外科志望には不向きと言えます。いずれの場合も、長期の勤務義務とキャリア形成を両立する計画性、そして義務未達時のリスクを十分に理解した上で地域枠制度を活用することが肝要です。
Sources:
- 日本医科大学公式サイト「地域枠提出書類」各PDF(東京都・千葉県・埼玉県・静岡県・新潟県) ほか
- 各都県の医師修学資金制度案内(東京都保健医療局、新潟県地域医療振興協会等)
- 埼玉県医師育成奨学金制度 概要(埼玉県公式サイト)
- 千葉県医師修学資金制度 募集要項・Q&A(千葉県公式サイト)
- 日本医科大学入試情報(医学部受験ラボ) など

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